【トランスリンクニュース4】
米国判例に見る翻訳の留意点(2)
In re Giannelli CAFC 2013-1167
この判決は米国特許庁の審査実務である機能クレームのBRI基準(Broadest reasonable interpretation)を見直す大変重要な判決である。近年、発明の要素を記載するのに、Means plus function claimに代り、たとえば”adapted to”, “configured to”のような機能的語句を使うことが多くなった。このような機能的語句を用いたクレームは、明細書の記載に照らして最も広い合理的な解釈(BRI基準) がなされ、その機能を実現することができるかもしれない先行例をもって拒絶されてきた。しかしながら、この判決では、先行例が単にクレームされた機能を実現することができる”capable of”というだけではなく、当業者が先行例から”adapted to”, “configured to”という機能クレームを容易に変更できるということを示さなくてはならないとして、審判庁の決定を翻したものである。
この判決は、特許翻訳者にとっても翻訳言語の意味の重要性について注意を喚起する重要な判決であるので、特許翻訳という観点からこの判決を見てみたい。
本件のクレーム1は以下のとおりである。
1.A row exercise machine comprising an input assembly including a first handle portion adapted to be moved from a first position to a second position by a pulling force exerted by a user on the first handle portion in a rowing motion, the input assembly defining a substantially liner path for the first handle portion from the first position to the second position.
このクレームでは、第一のハンドル部が第一の位置から第二の位置まで引っ張って動かされるように取り付けられている (adapted to) と記述されている。CAFCの判決では、「”adapted to”という語句は、しばしば“made to”, “designed to”, “configured to”の意味につかわれる。また、その語句は”capable of” “suitable for”を意味するけれども、ここでは明細書の記載から、この特許出願で使われている”adapted to”という語句が、もっと狭い意味を持つことが明らかである。」として、特許性を認めたものである。すなわち、本判決では「取り付ける」という語句の概念としては、
“capable of”, “suitable for” ⊃ “adapted to” ⊃ “made to”,” designed to”, “configured to”
として、たとえ語句“adapted to”が”capable of”という意味を持ったとしても、より狭い意味を持つ語句“adapted to”の構成の本発明を当業者が先行例から容易に実現できるものではないとして、特許性を認めたものである。
ここで考えなければいけないのは、かりに「第一の位置から第二の位置まで引っ張って動かされるように取り付けられている第一のハンドル部を有する入力アッセンブリーからなる漕ぎ運動器具」という日本特許出願があったとして、明細書を翻訳する際に、翻訳者が「~するように取り付けられている~」をより広い表現として「~することができる~」と解釈してcapable ofという訳語を当てたときに、CAFCは本判決をどのように判断したであろうか。CAFCが同じ判決にたどり着くか、または異なった判決を出すかは分からないが、いずれにしろ、この判決は、特許翻訳にあたってどのような訳語を使うかは、明細書の記載をよく理解し、しかも多々ある同義語から単語本来の意味や概念の大小を理解したうえで的確な訳語を当てなければならないということを教えている。