【トランスリンクニュース11】 意匠出願についての雑感
今回は特許翻訳に関するものではないが、企業競争力の一側面を示すものとして最近の意匠出願の傾向について若干気になったので触れておきたい。
米国Apple社が韓国Samsungを特許侵害で訴えた米国訴訟において、対象となった特許には3件の意匠特許が含まれ、この意匠特許に関し地裁レベルでは約400億円の損害が認められたことは記憶に新しいところである。この判決はCAFCでは容認されたが、最高裁にさらに上告された。最高裁では侵害の対象となる製品が製品全体を指すのか、それとも構成部品を指すのか明確ではないとして差し戻されている。
しかし、意匠特許に関して400億円もの賠償額が出たというインパクトは大きく、この地裁判決が出た2012年以降でも米国での意匠出願件数は大きく伸びてきている。一般に、デジタルネットワーク時代の製品では、ハードウエアでは差別化は難しく、競争力強化を図るにはハードウエアにインストールされるソフトウエアの機能とか製品の使い勝手、そして製品のデザインで差別化を図っていくことが重要になってきている。その意味で、近年ますますデザインを保護する意匠やネーミングを保護する商標を重要視する企業が増えてきている。そういう時代を反映してか、米国においては2006年以降意匠出願件数は大きく増加している。米国では2006年には25000件あまりであったのが、2008年には27800件、2010年には29000件、2012年には32800件、2015年には39000件あまりとなっている。
一方で、日本における意匠出願件数はどうなっているのか見てみると、残念ながらその件数は漸減している。2006年には36700件あまり会った出願が、2015年には29900件となっている。日本では特許訴訟を起こしても、損害賠償額は米国に比べて格段に低く、意匠特許での侵害訴訟にたとえ勝訴しても、弁護士費用にもならないことが多いのが現状である。そのような状況では、有効な権利活用が望めない日本において意匠出願が減っているのも無理からぬことである。
しかし、今後日本企業が中国企業などと国際市場で競争していくには特許のみならず意匠や商標をも強化していくことが不可欠であり、この面でも米国企業にならって国際競争力を付けていかなければならない。しかも米国における日本からの意匠登録も2013年の2092件から2014年の1975件、2015年の1878件と減っているのは問題ではなかろうか。